『アムノンの罪』 Ⅱサムエル13章1−22節

<前回までのあらすじ>
前回の箇所は、ダビデの悔い改めの結果、主の慰めと回復が告げられる箇所でした。ダビデとバテシェバの間に、もう一人の男の子が与えられました。その名は、ソロモン(平和)であり、エディデヤ(主に愛される者)でした。また、ヨアブは、ラバに最後の一撃を加える際に、ダビデにこう言いました。「あなたがこれを攻め取ってください(12:28)」。ラバは、ダビデとって、罪の現場そのものでした。しかし神様は、そのラバから逃げるのではなく、ヨアブを通して、勝利してこそ本当の回復がある、と教えられたのです。

しかしダビデの苦難が過ぎ去ったわけではありません。前も話したように、罪は赦されても「関係の歪み」は残っていました。ダビデには多くの妻たちと子供がいましたが、Ⅱサムエル記3章2節には、妻と息子達のリストがあります。今日登場しているアムノンは妻アヒノアムとの間に生まれたダビデの長男であり、アブシャロムは妻マアカとの間に生まれた三男でした。タマルはそのアブシャロムの妹でした。ダビデが王となってから、更に多くの妻と子達が加えられましたが、その中に、バテシェバとソロモンがいました。◆これは主の御心に背くことでした。そもそも創世記には「ふたりは一体となる(2:24)」と一対一の結婚が示されており、申命記にも「王は…多くの妻を持ってはならない(17:17)」と定められています。ダビデは愛情深い人でしたが、異性にはその弱い面が現れ「性的にルーズな家風」として受け継がれていきました。親は、自分生き方が「家風」を作り上げることを自覚しなければなりません。子は、親の「言う」ようにではなく「行う」ようになっていくのです。

アムノンは美しい異母兄妹タマルに恋をしました。その感情は激しく「苦しみ、やつれ、わずらう(2,4)」ほどでした。残念なことに、彼はその時、相談する相手を間違えました。相手は「非常に悪賢い」従兄弟のヨナダブでした。彼は「王子様」とアムノンの自尊心をくすぐり、悩み事を聞き出した上で「仮病をよそおい、タマルをおびきよせ、(暗に)力づくで事におよぶべし」とアドバイスしました。罪とは、愚かな人と、それを煽る別の愚かな人によって、更に大きく燃え広がっていくのです。◆アムノンは、アドバイス通りにしました。タマルは抵抗しながら「今、王に話してください。きっと王が私をあなたに合わせてくださいます」と言いました。これは父であり王であるダビデに話し、正式に結婚の許可を得てください、という意味です。旧約聖書で異母兄妹の結婚は禁じられていました(レビ18章)。しかしアブラハムとサラの関係のように、特殊な場合もあったようです(創20:12)。しかし、タマルの必死の訴えもむなしく、アムノンは力ずくで彼女を辱めてしまいました。

更に悪いことに、アムノンは直後に、ひどい憎しみにかられタマルを追い出してしまいました。タマルは、灰をかぶり、衣を裂き、声をあげて泣きました。それは誰かが死んだ時の表現でしたが、タマルはこの時、自分自身が、人格的に殺されてしまったのです。それを聞いてダビデは激しく怒りました。兄のアブシャロムは、静かにタマルを引き取り一緒に暮らしました。そして虎視眈々と復讐の機会をうかがっていたのです。◆そもそも、アムノンは本当にタマルのことを愛していたのでしょうか?本当の愛は、待ちます。そして、自分の思い通りにならなくても、相手の幸せを願い続けます。相手を尊敬しているからです。でも欲望は待てません。自己中心で、思い通りにならなかったら怒り出します。たとえ思い通りになっても、願いが叶えば相手への関心を失い、手のひらを返したように振舞いだします。その人は、もともと自分の欲望だけを愛していたからです。あなたの行動は、本当の愛から出ていますか?